第２９話　お嬢様の絶望と恐怖

　ユウは静かに女の子を見つめる。

「お前の許しなんか必要ないな。」

　その言葉に、護衛兵たちが硬直する。広場の空気が一層冷たくなるのを感じた。

　女の子はわずかに目を見開いたが、すぐにツンと顔を上げ、「あっそ！なら、痛い目に遭っても知らないんだから！」と怒りを込めて言い放った。

　ユウはそれに対して、ただ軽く笑った。

「……やれるもんなら、やってみな。」

　広場に、張り詰めた沈黙が落ちる。

　当然、抵抗はさせてもらう。

　指示を受けた、護衛兵が３人俺を捕らえに来るが軽く鎧の上から腹を殴り気絶させた。

「もぉ！　何をやってるのかしら……まったく、役に立たない兵士だこと！」と呟き、周りを見回した。

　商業区画ということもあり、距離を取り町の人が大勢あつまり人だかりができていた。

「……ここでは、人目がありすぎるわね……付いてきなさいっ！」と女の子が言い、移動をするらしい。

　ついていく義理はないが、ここで無視してさらに怒らせても目立つし……俺がいない間に店に来られても被害を受けそうだしな。きっちりと言い聞かせるか……面倒だが。

　大人しく言うことを聞き、移動すると町の外へ出てきた。

「よく大人しく付いてきてくれたわね。これから、どうなるかも分からないのかしら……ウフフ」と、バカにしたように笑った。

　町外れの静けさが、まるで嵐の前の静寂のように張り詰めていた。人目がないのは、こちらとしても好都合だった。

　お嬢様は冷たく微笑みながら、一歩前へ出る。 「ここなら……抜剣を許可いたしますわ……。でも、殺さないでくださいね。」 言葉には余裕があったが、その瞳には挑発の光が宿っていた。 「その者に跪かせて許しを乞わせたいので……ふふっ♪」

　彼女の護衛兵たちは、確かな武器を構え、こちらへ歩み寄る。だが、こちらはいつも通り、手間をかけるつもりはなかった。

　ユウは一息つき、次の瞬間、静かに動いた。

　護衛兵たちは対応しようとしたが——その隙すら与えられなかった。

　わずか数分後——２０人ほどの護衛兵が地面に崩れ落ちた。 刀は抜かれることもなく、全員が気絶して転がっている。

　お嬢様の表情が変わった。

「な、なにを……したのかしら？　え？　ウソ……」

　微笑みは消え、目を見開いた彼女は一歩後ずさる。周囲には気絶した護衛兵たちが転がり、誰も動ける者はいない。

　ユウはゆっくりと視線を向け、冷静な声で問いかける。 「ちょっとお前、やりすぎじゃないのか？」

　その言葉が落ちた瞬間、お嬢様は完全に硬直した。足元が不安定になり、バランスを崩しながらその場に座り込む。

「うっ……あ……っ……。」

　腰を抜かした彼女は、かつての余裕を失い、ただ呆然とするばかりだった。

「うぅぅ……わたくしだって、魔法を使えるんだからぁぁ。"烈火の力よ、我が手に集い、敵を撃て――ファイアショットぉ！"」

　……うぅーん、めんどいな。低級くらいの獣か、平民が襲ってきた時には有効なレベルだな。俺には効かないっての。受けるのも避けるのも面倒だなぁ。避けたら「ふっふーん！　わたくしの魔法を受けるのが怖いのね！」とか言ってきそうだし。受けたら、「ふっふーん！　わたくしの魔法を避けられなかったわね！」とか……

　バリア、結界は奥の手で秘密にしておきたいし……。それに、対策をされても面倒だしな。自分の周りの空間の魔法制御、魔法の無効化、空間操作を合わせて使ってみるか。要はイメージだろ。

　気配探索を使うイメージで範囲を決める。次に、空間領域の中を制御するイメージ……魔法無効っと。

　最上級魔法をも超えたスキルが誕生した。『絶対的支配空間』ユウの独自の魔法。術者が発動することで一定範囲内の空間を完全に制御し、法則・時間・存在そのものを支配する強力な魔法領域になった。もはや、魔法だかスキルだか本人は分かっていない。

　女の子が放ったファイアショットが、ふわっと霧散した。

「な、なんなのよぉ！」と言い、ファイアショットを繰り返し詠唱するが魔法が発動しない。

「あ、ここは俺の絶対支配空間になった。魔法は無効だぞ。」

　町外れの静寂が戻る中、ユウはただ淡々と彼女を見つめてため息をつき、女の子へ近づいた。

「貴方、いったい何者なのよ！？　絶対領域？　無効？　意味わかんないわ。　護衛が２０人は、いたわよ！？　ちょ、ちょっと！！　なにするのよ！！　触らないで！　やっ、やめなさい……！」文句を言い暴れる女の子を抱えるとおしりを叩いた。

パチーンッ！　パチンッ！

「やっ！　キャーーー！　いたっ！　痛いわよ！　ば、ばかぁ……やっ。やめなさいっ！　なにをしているのか分かっているのかしら！？　んっ、いやっ！　ううぅ……」すると、段々と泣き声になってきた。

「悪いことをしたら何て言うんだ？　小さな子供でも言えるだろ？　お前、怒られたことないとかか？　謝れるまで続けるけどな……」と言い、お尻を叩き続けた。

「きゃ、んっ。痛い……うぅ……。いたーい……痛いわよぅ……ご、ごめんなさ……い……」と謝ってきた。

「ん？　聞こえなかったぞ？」

「……ごめんなさいっ！　って言ったのよっ！　ううぅ……ばかぁ……ぐすん…っ」と泣き出した。

　……ちょっとやりすぎたか……？　これくらい痛い目にあわないと分からないだろからな。

「ひゃ、わ、わわぁ……こ、今度は何をっ！？」と驚きの声を女の子が上げた。

「……いや、叩きすぎて痛いかと思って……。ただ撫でただけだが？」とサラッと答えた。

「そ、そぅ……」と安心したようなホッとした声を出した。